SN比が高くなると、ノイズ(誤差因子)に対してどうなる? [【YouTube】]
品質工学は、「SN比が高くなる」状態を「良し」としています。
それは何故でしょう?
SN比が高くなると、品質トラブルの原因である「ノイズ(誤差因子)」に対してどうなるのでしょうか?
今回は、そんなお話をします。
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モータ製造メーカーの例でお話します。
ここに【現行条件】のモータがあります。
品質トラブルの原因であるノイズ(誤差因子)としては、以下の3つが考えられます。
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・温度
・寸法Aのバラツキ
・ブラシの摩耗
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これらのノイズが「定格トルク」に与える影響について実験してみました。
すると、このような要因効果図を得ることができました。
ここで注意して欲しいのは、普通は、要因効果図というと、横軸が制御因子になります。
ここでは、横軸がノイズ(誤差因子)になっています。
つまり、ノイズの影響を調べたのです。
3つのノイズの内、一番効く(要因効果が最も傾いている)のは、「寸法Aのバラツキ」です。
2番目に効くのは「温度」です。
このように、要因効果の傾斜によって、効く程度が分かります。
※要因効果が同じ値(つまりフラットな傾向)になれば、「そのノイズは全く効かない」ということになります。
次に、【現行条件】のモータについて、品質工学(パラメータ設計)を使って、設計条件を最適化したとします。
この場合、制御因子は以下の4つです。
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・不純物濃度(%)
・寸法B
・寸法C
・寸法D
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品質工学(パラメータ設計)で実験すると、要因効果図を得ることができます。
今回のモータの要因効果図は、どのようになったでしょうか?
このような要因効果図を得ることができました。
【現行条件】を赤丸で示します。
「SN比が高い条件」=「良い条件」となりますので、【最適条件】は、青丸で示した条件となります。
ということで、【最適条件】でモータを作り、SN比を確認してみると、SN比=33dbという結果を得ることができました。
【現行条件】のモータと比較すると、SN比は「18db」も向上したことになります。
次に、ノイズに対する影響を見てみましょう。
つまり、ノイズに対する要因効果図を作ってみるのです。
これは、先ほどお見せした【現行条件】における「ノイズに対する要因効果図」です。
こちらは、【最適条件】における「ノイズに対する要因効果図」です。
両者の要因効果図を比較してみます。
どうでしょうか?
両者の違いは、一目瞭然です。
つまり、【現行条件】の方は、要因効果の傾斜がきつくなっていますので、ノイズに対して「敏感」になっています。
「敏感」ということで、「影響を受けやすい」ということで、好ましくない状態です。
一方、【最適条件】の方が、要因効果の傾斜が緩やかになっていますので、ノイズに対して「鈍感」になっています。
「鈍感」ということは、「影響を受けにくい」ということですので、好ましい状態です。
つまり、「ロバスト」な状態になったということです。
さて、ここで終わりではありません。
このような「ロバスト」な状態になったら、次のアクションとして何をやったらいいのでしょうか?
次のアクションは、3つあります。
1つ目は、(A)「規格値の上限/下限」をそのままにする場合です。
2つ目は、(B)「使用環境・公差・耐久性」をそのままにする場合です。
3つ目は、(C)「規格値の上限/下限」&「使用環境・公差・耐久性」をそのままにする場合です。
これはイコール
「(C)規格も性能も、(何も変えなくても)今のままで十分だ」という場合です。
それぞれ詳しく見ていきましょう。
(A)「規格値の上限/下限」をそのままにする場合
【現行条件】と【最適条件】のノイズに対する要因効果図を並べます。
【現行条件】の規格値の上限/下限は、最大のバラツキ原因である「寸法Aのバラツキ」のmax値とmin値に合わせて設定してあります。
この上限/下限を【最適条件】に適用します。
すると・・・
【最適条件】のノイズ「温度」は、規格値の上限/下限までもっと広げることができるので、使用温度帯を【現行条件】より広げることが可能となります。
つまり、「より汎用的」なモータとすることが可能です。
【最適条件】のノイズ「寸法Aのバラツキ」は、規格値の上限/下限までもっと広げることができるので、公差を【現行条件】より広げることが可能となります。
つまり、「より低コスト」なモータとすることが可能です。
【最適条件】のノイズ「ブラシの摩耗」は、規格値の上限までもっと広げることができるので、耐久性(摩耗しても大丈夫な摩耗量)を【現行条件】より広げることが可能となります。
つまり、「より長寿命」なモータとすることが可能です。
ということで、(A)「規格値の上限/下限」をそのままにする場合では、「使用環境・公差・耐久性」を改善することが出来るのです。
(B)「使用環境・公差・耐久性」をそのままにする場合
【現行条件】と【最適条件】のノイズに対する要因効果図を比較します。
両者の規格値の上限/下限を、各ノイズのmax値とmin値に合わせて設定します。
すると、【最適条件】の方が、上限と下限の幅を狭くすることが可能です。
これはつまり、「定格トルクのバラツキを小さくすることが可能」ということになりますので、「より高スペックなモータを開発できた」ということになります。
(C)「規格値の上限/下限」&「使用環境・公差・耐久性」をそのままにする場合
=「(C)規格も性能も、(何も変えなくても)今のままで十分だ」という場合
モータの顧客が、『規格も性能も、今のままで十分だ』と言うのであれば、もっと他の対応ができます。
先ほど、品質工学(パラメータ設計)による最適化で、【最適条件】では「SN比=33db」という好結果を得ることができました。
好結果を得ることができましたが、
この場合では、SN比は(敢えて)向上させずに、【現行条件 ver.2】というものを作り、SN比を同じレベルにして、低コスト化を検討するのです。
どうやってやるのでしょうか?
やり方をご紹介します。
ある特定の制御因子(この場合は)「不純物濃度」に着目します。
【現行条件】の「不純物濃度」は【7%】ですが、これを敢えて【9%】に設定するのです。
【9%】にすると、【現行条件】よりもSN比が下がります。
意図的にSN比を下げるのです。
ただし、これだと【現行条件】のSN比=15dbよりも下がってしまうので・・・
その他の制御因子(寸法B、寸法C、寸法D)については、SN比が上がるように【最適条件】を選びます。
すると、【現行条件 ver.2】のトータルのSN比は、SN比=15dbとなり、【現行条件】と同じレベルになります。
【現行条件 ver.2】と【現行条件】のSN比は同じ15dbですが、制御因子「不純物濃度」をより低級な【9%】に設定することが出来るため、コストが安くなります。
このようにして、低コスト化を実現するのです。
まとめます。
次のアクション(A、B、C)を実施することにより、以下の3つのいずれかを実現できます。
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・「使用環境・公差・耐久性」を改善できる。
・「規格値の上限/下限」を狭くできる
・低コスト化できる
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3つのアクション(A、B、C)を実現できますが、どのアクションを採用するかは、自分で選択します。
※「顧客の要求」や「自社の思惑」などによって、アクションは変わります。
総まとめです。
SN比が高くなると、ノイズ(誤差因子)に対してどうなる?
↓
「鈍感(ロバスト)」になります。
↓
その結果
・より汎用的に
・より長寿命化
・より高スペック化
・より低コスト化
が実現できます。
2023-01-23 10:40