確認実験はSN比と感度のそれぞれで実施する必要がある [【YouTube】]
確認実験はSN比と感度のそれぞれで実施する必要がある。
最大利得で確認実験すべき理由(わけ)
という話題をご紹介します。
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最初に結論を述べます。
【確認実験は推定値の利得が最大となる組合せにする必要がある】
・「比較条件」=「最悪条件」にする。
・「中位の条件」を「比較条件」にするのはダメである。
【「SN比」と「感度」は、それぞれ確認実験する必要がある】
最初に確認実験について説明します。
品質工学(パラメータ設計)の手順は、直交表実験をした後、要因効果図を作成し、確認実験を行います。
確認実験の目的は、要因効果図の信頼性をチェックすることでです。
では、そのやり方を説明します。
直交表実験を終えた時点では、要因効果図の信頼性は「不明」なのです。
よって、この信頼性をチェックするために確認実験(2条件)をします。
要は、要因効果図のmaxとminの差がちゃんと再現するかをチェックするのです。
チェックする方法を述べます。
要因効果図を見て、SN比の高い条件(最適条件と呼称します)に青丸を付けます。
その青丸を中央下にプロットし直します。
紫の線は、全SN比の平均値(-6.77db)です。
その紫の線から上に飛び出た分(矢印)を積み重ねると、【7.5db】と計算できます。
これが最適条件の時のSN比の推定値です。
同様に、SN比が中位の条件(比較条件と呼称します)に赤丸を付けます。
その赤丸を中央下にプロットし直します。
紫の線から下に飛び出た分(矢印)を積み重ねると、【-16.9db】と計算できます。
これが比較条件の時のSN比の推定値です。
【7.5db】と【-16.9db】の差を利得と言います。
この場合は、利得=【24.4db】です。
これが、要因効果図から計算したSN比の差(利得)の推定値です。
そして、実際に実験して確認したSN比の差(利得)と一致するかを検証するのが確認実験です。
実際に実験して確認してみると、
SN比が高いの条件(最適条件)では、【6.9db】になりました。
SN比が中位の条件(比較条件)では、【-20.3db】になりました。
先ほど要因効果図から計算した利得と一致するかを確認してみます。
推定値と確認値がニアリーイコール(≒)になれば、「要因効果図は再現性が高い」→「要因効果図の信頼性は高い」となります。
反対に、
推定値と確認値がイコールにならなれば、「要因効果図は再現性が低い」→「要因効果図の信頼性は低い」となります。
ここで、ワタシが昔から不思議に思っていたことがあります。
SN比の要因効果図と感度の要因効果図は、同じ傾向にならばい場合(殆どの場合が同じ傾向になりません)は、SN比用の確認実験と感度用の確認実験をそれぞれ別々に実施する必要があるのでは?!と昔から思っていました。
でも、(従来のやり方では)別々に確認実験していません。
どちらか(SN比 or 感度)を重視して「最適条件」を選んで確認実験しているのです。
それでいいのでしょうか?
従来のやり方で選ぶ場合を説明します。
例えば、SN比を重視して選ぶと、このような選び方になります。
これで確認実験すると、
SN比:推定値の利得=25db、確認値の利得=20db、再現率=80%
感度:推定値の利得=5db、確認値の利得=10db、再現率=20%
感度を重視して選ぶと、このような選び方になります。
これで確認実験すると、
SN比:推定値の利得=7db、確認値の利得=?db、再現率=80%になって欲しい。(というか、なってもらわないと困る)
感度:推定値の利得=20db、確認値の利得=?db、再現率=20%になって欲しい。(というか、なってもらわないと困る)
「SN比を重視して選んだ場合」と「感度を重視して選んだ場合」では、(共通の最適条件と比較条件で確認実験しているので)、同じ再現率になってもらわないと困るのです。
しかし、それぞれで確認実験してみると、再現率が異なるのです。
いったいどちらの再現率の方が正しいのでしょうか?
ワタシ(増田)は、
SN比を重視して選んだ場合のSN比の利得の再現率(80%)が正しいように思います。
感度は、
感度を重視して選んだ場合の感度の利得の再現率(90%)が正しいように思います。
つまり、「大きな利得でチェックするのがベター」だと思うのです。
ということで、
火縄銃の事例(シミュレーション)で、推定値の「利得の大小」で再現率が変わるのか?を検証してみることにしました。
火縄銃の事例で検証します。
「火縄銃で150m先に着弾させる」実験(シミュレーション)です。
飛距離yは、このような数式で算出できます。
ノイズ(誤差因子)は、仰角のバラツキ(±1deg)を設定します。
ノイズを与えてSN比で評価します。
また、制御因子は3つあるので、L9直交表に割り付けて実験(シミュレーション)します。
L9直交表実験の結果から、要因効果図を作成しました。
(※制御因子は3つなので、一番右の列は、「割り付け無し」です)
通常のやり方では、どちらか(SN比・感度)を重視して「最適条件」を選びます。
SN比を重視して選ぶと、こうなりました。
----------------------
SN比:推定値の利得=6.3db、確認値の利得=6.3db、再現率=100%
----------------------
感度:推定値の利得=238、確認値の利得=151、再現率=63%
----------------------
感度を重視して選ぶと、こうなりました。
----------------------
SN比:推定値の利得=6.3db、確認値の利得=6.3db、再現率=100%
----------------------
感度:推定値の利得=302、確認値の利得=334、再現率=111%
----------------------
SN比の再現率は、どちらも100%でした。
しかし、
感度の再現率は、63%と111%でした。
どちらが正しいのでしょうか?
ここで、様々な2条件の組合せ(様々な利得)で「利得の再現率」を検証してみることにします。
先ほどSN比を重視して選んだ最適条件と比較条件は、
最適条件【A2・B3・C2】、比較条件【A1・B2・C3】でした。
先ほど感度(出力平均)を重視して選んだ最適条件と比較条件は、
最適条件【A3・B3・C1】、比較条件【A2・B2・C3】でした。
この他、組合せNo.1は、
最適条件【A1・B1・C1】、比較条件【A2・B2・C2】として検証します。
組合せNo.2は、
最適条件【A1・B1・C1】、比較条件【A3・B2・C2】として検証します。
組合せNo.…は、
最適条件【…】、比較条件【…】として検証します。
組合せNo.XXXは、
最適条件【A3・B3・C3】、比較条件【A2・B2・C2】として検証します。
様々な2条件の組合せ(=様々な利得)で確認実験します。
その組合せは何組あるのでしょうか?
火縄銃の制御因子は3水準が3つです。
よって、その条件の組合せは、3水準×3水準×3水準=27通りです。
そこから(確認実験用に)2条件の組合せを作るので、27C2=351組となります。
ただし、同じ水準値だと利得のチェックが出来ないので除外します。
例えば、
最適条件:A1・B1・C1
比較条件:A2・B1・C3
だと、Bについては同じ水準値になってしまうので、利得のチェックが出来ませんので、このような組合せは除外します。
すると、残るのは108組となります。
108組の組合せは、こんな感じになります。
108組の組合せそれぞれで再現率をチェックしていきます。
(骨の折れる作業ですので)エクセルで効率的に計算することにしました。
エクセルで計算しました。
組合せNo.73
では、SN比の推定値の利得=16.8dbになりました。
これは、108組中の最大利得ですので、これを最大利得に対する比率で表現することにします。
つまり、利得=16.8dbでは、【100(%)】と表現します。
利得=6.3dbの場合は、【38(%)】と表現します。
【100】の時と【38】の時をグラフにプロットしてみます。
すると、こんな感じになります。
108組の組合せをプロットすると、こんな感じです。
多数が重なっているプロットされているのです。
これを見ると、利得の大小によらず、再現率はどれも100%です。
アレ?という感じがしますが、これには理由(わけ)があります。
↓です。
実は、この場合は、制御因子間の交互作用が「全く無い(0)」という希有な事例なのです。
よって、どの利得でも同じ再現率(100%)になったのです。
なぜ最大利得に対する比率が3つ(38・62・100)しかないかというと、SN比の要因効果図を見ると、制御因子B以外は完全にフラット(どれも同じSN比)なので、これらから利得の組合せを作ると、3つしかないのです。
次に出力平均について検証してみます。
同様に、最大利得484を【100(%)】として比率で表現します。
利得222の場合は【46(%)】という表現になります。
これらをグラフにプロットしてみると、こんな感じになります。
全108組をプロットしてみました。
すると、なんということでしょう。
こんな風に、最大利得に対する比率が小さくなると、再現率がケースバイケースでバラついてしまうのです。
どれが正しいのか?
おそらく、最大利得【100】の時の再現率=89%が正しいのではないかと思います。
ということで、
「最大利得で確認実験するのが理想」という結論になりました。
例えば、最大利得に対する比率【50】の時は、2条件の組合せ次第で、再現率は5%〜175%までバラつきます。
「組合せ次第で再現率がバラつく」とは、どういう意味でしょうか?
例えば、制御因子「砲弾の質量」は、最適条件は、一番左を選んでも真ん中を選んでも、出力平均の値はほぼ同じです。
しかし、ほぼ同じにも関わらず、どちらを選ぶかで、再現率が5%〜175%でバラついてしまう可能性がある。
「組合せ次第で再現率がバラつく」とは、そういう意味です。
話は変わりますが、
比較条件は(普通は)、中位の条件を選びます。
中位の条件を選ぶと、利得は【50】位になります。
先ほど示したように、【50】では、再現率が5%〜175%でバラついてしまう可能性があります。
従いまして、比較条件に中位の条件を選ぶのは、適切ではないということが分かります。
比較条件は、最悪条件を選ぶべきでしょう。
ということで、
確認実験は最大利得で実施するのが理想です。
ということは、
「「SN比」と「感度」は、それぞ確認実験する必要がある」ということになります。
ここで、ある興味が湧いてきました。
それは、交互作用の大小で、この再現率のバラツキがどう変わるのか?です。
ということで、交互作用の大小を変えて検証してみることにしました。
交互作用の大小を変えるやり方を説明します。
火縄銃の事例では、「打出力」と「仰角」の間には交互作用があります。
この交互作用を意図的に変えるにはどうしたらいいか?というと、
「仰角」の水準の振り幅を変えれば、交互作用の大小が変わるのです。
例えば、
仰角を【5deg、15deg、25deg】と変えると交互作用は【大】ですが、
仰角を【10deg、15deg、20deg】と変えると交互作用は【中】になり、
仰角を【13deg、15deg、17deg】と変えると交互作用は【小】になります。
極端に言えば、【15deg】に固定してしまえば、交互作用は【0】になります。
この様なやり方で交互作用の大小をコントロールし、再現率のバラツキがどう変化するのかを検証してみました。
その結果です。
水準の振り幅を段々と小さくする(すなわち、交互作用を小さくする)と、再現率のバラツキは段々と小さくなっていきます。
交互作用が極端に小さいと、最大利得【100】じゃなくても大丈夫そうだということが分かります。
【30】〜【100】までの間であれば、どこで確認実験しても同じ再現率が求まるのですが、ここに大きな問題があります。
それは、「確認実験をやる前に交互作用の大小は不明だ」ということです。
よって、結局は、最大利得で確認実験するしか手がないのです。
総まとめです。
確認実験は推定値の利得が最大となる組合せにする必要がある。
(「比較条件」=「最悪条件」にする※「中位の条件」はダメ)
「SN比」と「感度」は、それぞれ確認実験する必要がある。
しかし、これは面倒ですので、『はい、そうやります』とはなかなか言えません(^^;)
どうしたらいいのでしょうか?
次の記事で検討することにします。
お終い。
2023-03-13 10:02