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「品質工学は2段階設計です」と説明するのはヤメよう。それ、間違いです。 [【YouTube】]

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「品質工学は2段階設計です」という説明を、聞いたり読んだりしたことはないでしょうか?
サラッと聞き流すと、『なるほど!』と思ってしまうのですが、よく考えてみると、何だか変です。

【品質工学の本質について、もっとよく考えてみよう】ということで、この2段階設計について検討してみることにしました。

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従来の開発手法のイメージを説明します。

このグラフは、「出力トルク」のヒストグラムです。
ある現行条件にて、複数個の製品の「出力トルク」を測定してみると、こんなような分布になりました。

すると技術者は、「目標値に合わせ込む」&「バラツキを小さくする」という目標に向かって技術開発を進めます。

従来の開発手法では、先ず最初に平均値を目標値に合わせ込もうと、試行錯誤の実験をします。
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次にバラツキを小さくしようと、試行錯誤の実験をします。

これが従来の開発手法での代表的なやり方です。
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品質工学の開発手法のイメージを説明します。

品質工学では、先ず最初にバラツキを小さくしようと実験を行います。
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次に、平均値を目標値に合わせ込もうと実験を行います。

これが品質工学の開発手法です。
※こういう説明を聞くと、何故か「品質工学はスゴイ!」と感動してしまいます。
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でも、ちょっと待って下さい。
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「2段階設計」とは、英語では【 2 Step Optimization 】です。
つまり、【 2段階最適化 】なので、『2段階に分けて最適化する』ということです。
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ここで、「品質工学」と「従来の開発手法」との比較してみます。

すると、「バラツキを小さく」と「平均値を目標値に合わせる」という順番は異なるものの。
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どちらの手法も、2段間なのです。
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つまり、「品質工学」も「従来の開発手法」も、2段階最適化(2段階設計)なので、
「品質工学は2段階設計です」という表現は不適切だということが分かります。
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更に、「表現」が不適切なのに加えて、「説明」が不正確です。
どいういうことかというと。
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先ほど、「バラツキを小さくする」と説明しましたが、バラツキを小さくしようとすると、必然的に平均値がズレてしまうはずなのです。
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平均値がズレてしまうので、次に目標値に合わせ込もうとしますが、目標値に合わせ込むと、必然的にバラツキが変化してしまうはずなのです。
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ということで、
『あちら(バラツキ)を立てれば、こちら(平均値)が立たず』
『こちら(平均値)を立てれば、あちら(バラツキ)が立たず』
という状態になってしまいます。

「バラツキ」と「平均値」を【2段階で】最適化すると、収拾がつかなくなくなってしまうのです。

ということで、『「バラツキ」と「平均値」のどちらが先か?』という順番は全く関係がなく、
【2段階で】最適化すること自体が難しいのです。

じゃあ、どうしたらいいのでしょうか?
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解決方法は、
【2段階】ではなく
【1段階】で○○する
です。
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【2段階】と【1段階】を比較して説明します。

【2段階】で実験する場合は、
「バラツキ」を小さくすべく、ご覧のようなABCDのパラメータを振って実験をします。
次に、「平均値」を目標値に合わせ込もうと、ご覧のようなCDEFのパラメータを振って実験をします。

【1段階】で実験する場合は、
「バラツキ」と「平均値」の両方を加味して、共通のパラメータ(ABCDEF)で実験をします。
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【2段階】で評価する場合は、
「バラツキ」が小さくなるように、各パラメータABCDの最適水準をそれぞれ選びます。
次に、
「平均値」が目標値に近くなるように、各パラメータCDEFの最適水準をそれぞれ選びます。

【1段階】で評価する場合は、
「バラツキ」と「平均値」のグラフを並べて、両者の「いいとこ取り」をすべく、各パラメータ(ABCDEF)の最適水準を選びます。
「いいとこ取り」できないパラメータ、つまり「二律背反」するパラメータについては、「二律背反の決断」をします。
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もっと詳しく説明します。

「バラツキ」は、品質工学では「SN比」です。
どのようなケースでも、「SN比は高い方が良い」です。

「平均値」は、品質工学では「感度(または出力平均)」です。
「平均値」の最適な条件は、ケースバイケースです。
今回の事例では、特性を「出力トルク」としていますので、「出力トルクは高い方が良い」とすると、「感度(または出力平均)は、高い方が良い」ということになります。

両者のグラフを見て、「いいとこ取り」をします。
「いいとこ取り」できない条件、例えば、パラメータFは、「バラツキ」と「平均値」が「二律背反」の関係になっています。
この際、技術者が『私は、バラツキ(SN比)を優先する』とか『私は、平均値(感度)を優先する』とかを自分自身で決めることになります。
これが「二律背反の決断」です。
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このように、
【1段階】で実験/評価することで、全てを承知/納得した上で、「いいとこ取り」や「二律背反の決断」が可能となります。

これが本当の「品質工学」の長所なのです。
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一方、【別々のパラメータ】で【2段階】で実験/評価するとどうなるでしょうか?

「バラツキ」での実験と「平均値」での実験で共通しているパラメータCとDでは、「いいとこ取り」が可能です。
しかし、・・・
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しかし、パラメータAとB、パラメータEとFのように、片方しか評価していないパラメータの場合は、「いいとこ取り」や「二律背反の決断」が不可能なのです。
ということで、「バラツキ」と「平均値」の両方を満足させるような最適化は難しい、ということになります。

これが「従来の開発手法」の本当の短所なのです。
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まとめます。

品質工学は、1段階最適化(1段階設計)なので、最適化が容易。
従来の開発手法は、2段階最適化(2段階設計)なので、最適化が難しい。
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結論です。

「品質工学は、2段階設計です」と説明するのは、間違いです。
品質工学のオリジナリティは、「1段階」で最適化することです。

「品質工学は、1段階設計です」と説明するようにしましょう。
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