【改訂版】従来の品質工学との訣別 [【その他の品質工学関連】]
2018年5月12日
【改訂版】従来の品質工学との訣別
「もっといい品質工学」へ
※2018年3月26日にUPした記事の【改訂版】になります。
※より詳細に解説してあります。
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従来の品質工学の根幹を為す考え方は、
「交互作用が大きいとシステムが不安定」という考え方です。
この考え方の元、品質工学では以下に示す2つの難解なパラダイムが生まれました。
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(A)「基本機能」が重要
(B)直交表で「交互作用」をチェックする
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『(A)「基本機能」が重要』について述べます。
田口玄一氏の考え方は、以下の通りです。
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目的機能 → 【交互作用:大】→システムが不安定→ダメな条件
基本機能 → 【交互作用:小】→システムが安定→良い条件
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目的機能で入力と出力を設定すると、制御因子間の交互作用が大きくなり、システムが不安定となる。
よって、ダメな条件が求まってしまう。
基本機能で入力と出力を設定すると、制御因子間の交互作用が小さくなり、システムが安定となる。
よって、良い条件が求まる。
だから、
『入力と出力を「基本機能」で設定することが重要』
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『(B)直交表で「交互作用」をチェック』について述べます。
田口玄一氏の考え方は、以下の通りです。
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・制御因子間の「交互作用」が大きい → システムが不安定
・制御因子間の「交互作用」が小さい → システムが安定
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だから、
『制御因子を直交表に割り付けて「交互作用」をチェックする』
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「従来の品質工学の根幹を為す考え方」が引き起こす問題点について述べます。
この2つのパラダイムは、難解が故に、以下の3つの問題点を抱えています。
※正確に言うと「難解が故に」ではなく「間違っているが故に」ですが、詳細は後述します。
■3つの問題点
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・「普及が進まない」
・「活用上の難しさから成果を得にくい」
・「上から目線で禅問答のよう指導をするコンサルタントが、品質工学の反対派を増やす」
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「従来の品質工学の根幹を為す考え方」は正しいのでしょうか?
私は、この考え方の根拠を求め、品質工学会誌を最初の号から読んでみました。
しかし、明確な根拠は見つかりませんでした。
見つかりませんが、品質工学の関係者は、一様にこの考え方を共有しているようです。
そして皆さんは、こう言うのです、
『品質工学では、交互作用が大きいと不安定なシステムである』と。
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根拠が示されていないのに、皆さんが一様にこの考え方を共有しているのは何故でしょうか?
もしかすると、
『田口玄一氏がこう言っているのだから、絶対に正しいはず』
と盲信的にこの考え方を受け入れ、思考停止に陥っているのかもしれません。
そこで私は、自分の頭でこの考え方が正しいのかを考えてみました。
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自分の頭でこの考え方が正しいのかを考えてみると、おかしな点が2つ見つかりました。
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(1)「交互作用」についてのおかしな点
(2)「システムの安定性」についてのおかしな点
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それぞれについて述べます。
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(1)「交互作用」についてのおかしな点は、以下の3つです。
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▲ 機能性評価では、交互作用を全くチェックしていない
▲ 取り上げていない制御因子間の交互作用について、全くチェックしていない
▲「制御因子と制御因子の交互作用は悪」で「制御因子とノイズの交互作用は善」というように、交互作用の善悪の扱いが全く逆である
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▲ 機能性評価では、交互作用を全くチェックしていない
「システムA」と「システムB」の機能性評価をしました。
「システムA」は、SN比=23dbという結果でした。
「システムB」は、SN比=17dbという結果でした。
両者を比較すると、「システムA」の方がSN比が高いので安定です。
しかし、「交互作用が大きいとシステムが不安定」という考え方によると、
機能性評価では、制御因子間の交互作用をチェックしていないので、
『「システムA」の下流での安定性は不明』ということになります。
であるならば、機能性評価をやる意味が無いことになります。
これは変です。
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▲ 取り上げていない制御因子間の交互作用について、全くチェックしていない
あるシステムにおいて、制御因子が20個あったとします。
その内の8個を選び出し、L18直交表に割り付けてパラメータ設計を実施しました。
すると、幸いなことに制御因子間の交互作用は小さいという結果が得られました。
「交互作用が大きいとシステムが不安定」という考え方によると、
このシステムは安定ということになります。
次に、残りの制御因子12個について考えてみます。
残りも同様に直交表に割り付けて実験できればいいのですが、様々な理由で実験ができないとします。
すると、この12個の制御因子間の交互作用の大小は不明です。
もしも制御因子間の交互作用が大きかった場合、このシステムは不安定ということになります。
ということで、実験可能な8つの制御因子だけで、この「システムは安定」と結論づけるのは無理があります。
全ての制御因子間の交互作用をチェックしなければ、このシステムの安定性は評価できないことになります。
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▲「制御因子と制御因子の交互作用は悪」で「制御因子とノイズの交互作用は善」というように、交互作用の善悪の扱いが全く逆である
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交互作用について述べます。
左側から説明します。
「制御因子」と「制御因子」の交互作用は、
制御因子Aと制御因子Bで総当たりで実験し、グラフにプロットすると、このようになります。
制御因子B1では、制御因子Aの傾向は右肩下がりになるのに、
制御因子B2では、制御因子Aの傾向は右肩上がりになっています。
よって、「交互作用は大きい」となります。
右側を説明します。
「制御因子」と「ノイズ」の交互作用は、
制御因子AとノイズNで総当たりで実験し、グラフにプロットすると、このようになります。
ノイズN1(高温)では、制御因子Aの傾向は右肩下がりになるのに、
ノイズN2(低温)では、制御因子Aの傾向は右肩上がりになっています。
よって、「交互作用は大きい」となります。
右と左、どちらの場合も交互作用は大きいです。
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左側の「制御因子」と「制御因子」の交互作用は、
このように交互作用が大きい場合は、田口玄一氏の考え方では「下流(市場)で不安定なシステムなので、選択すべきではない」ということになります。
こちらの交互作用は、品質工学では【悪】なのです。
一方、右側の「制御因子」と「ノイズ」の交互作用は、
制御因子A2の方がバラツキが小さくなっているので、ノイズによる影響を受けにくい(つまり、SN比が高い)ということです。
従って、A2を選べば「下流(市場)で安定システムなので、選択すべき」となります。
こちらの交互作用は、品質工学では【良】なのです。
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どちらも「交互作用が大きい」のに、品質工学では何故その扱いが【悪】と【良】に分かれるのでしょう?
これでは、交互作用の扱いがダブルスタンダードになってしまいます。
こういうダブルスタンダード的な考え方は、世の中で受け入れてもらえません。
「交互作用が大きいと下流で不安定」という田口玄一氏の考え方が正しければ、「制御因子とノイズの交互作用が大きい場合も(下流で)不安定」ということになるはずです。
しかし品質工学では、制御因子とノイズの交互作用を利用してSN比を向上させています。
つまり、制御因子とノイズの交互作用が大きければ、SN比を改善でき、システムは安定になるのです。
両者、矛盾しています。
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(2)「システムの安定性」についてのおかしな点は、以下の2つです。
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▲「システムの安定性」という考え方自体が間違っている
▲ 安定性はSN比で評価すべきである
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それぞれのおかしな点について述べます。
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▲「システムの安定性」という考え方自体が間違っている
あるシステムの中に、「安定な条件」と「不安定な条件」があるのであって、
「安定なシステム」や「不安定なシステム」があるのではありません。
↓で、もっと詳しく説明しましょう。
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システムAにおいて、条件を変えて実験したとします。
安定/不安定は、SN比で評価をします。
条件Y = 26 db でした。
条件X = 19 db でした。
条件Z = 14 db でした。
ということで、システムAでは、3つの条件の中では、条件Yが一番安定しています。
条件Y(26 db)>条件X(19 db)>条件Z(14 db)
同様に、
システムBにおいても、条件を変えて実験したとします。
安定/不安定は、SN比で評価をします。
条件W = 23 db でした。
条件V = 16 db でした。
ということで、システムBでは、2つの条件の中では、条件Wが安定しています。
条件W(23 db)>条件V(16 db)
ここで、システムAとシステムBを比較しても、全く意味がありません。
条件同士を比較することに意味があるのです。
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・システムAの条件X > システムAの条件Z
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・システムAの条件Y > システムBの条件V
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条件同士の比較であれば、
同じシステム内でも比較できますし、
異なるシステム内の条件同士の比較でも、全く問題なく比較ができます。
まとめます。
システムAとシステムBを比較するのは無意味です。
システムに関係なく、条件同士を比較することに意味があります。
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▲ 安定性はSN比で評価すべきである
安定な条件は、トラブルが少ない。
不安定な条件は、トラブルが多い。
この安定性(ロバスト性)の指標として、品質工学では「SN比」を使っています。
ISO16336においても、ちゃんと「SN比」を使うことが規定されています。
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ISO16336は、日本の品質工学会が主導して作った国際規格です。
ISO16336のアブストラクトに以下の文言があります。
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"ISO16336は、「ロバスト性」の尺度として「SN比」を規定している。"
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従って、安定性(ロバスト性)はSN比で評価すべきです。
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私が自分の頭で考え、導き出した結論です。
『従来の品質工学の根幹を為す考え方「交互作用が大きいとシステムが不安定」は間違いである』と私は結論付けました。
これは私にとって、とても衝撃的な結論でした。
なぜなら、私も以前(2003年6月〜2007年1月25日)、この考え方を元にコンサルティングをしてきたからです。
私は「間違った考え方をお客様に普及してしまった」という自責の念です。
しかしこれは、自分の頭で考えなかった自分が悪いのであって、誰かのせいではありません。
自分が悪いのです。
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↑は、以前(2003年6月〜2007年1月25日)の当社の初心者セミナーのPPTです。
再現性が乏しい(制御因子間の交互作用が大きい)のは、基本機能がまずいからで、その場合は、『技術の素性が悪いので諦める』とセミナーで説明していました。
その後、「交互作用が大きいとシステムが不安定」という考え方の違和感に気が付き、
2007年2月以降は、「暫定最適条件」というやり方で、技術者を苦しめないような対応をしてきました。
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「交互作用が大きいとシステムが不安定」という考え方を捨てると、大きなメリットが得られます。
それは、2つの難解なパラダイムが消滅するのです。
「基本機能」は、重要ではなくなります。
従って、「基本機能の検討し、交互作用を小さくしよう」という行為は、全く無意味になります。
基本機能は、アバウトでOKなのです。
「直交表を用いて、交互作用をチェックする」という検討は不要になります。
従って、直交表は、満遍なく均等に条件を振る道具であり、単純に「実験回数を減らす道具である」と考えていいです。
もはや、「交互作用」という難しい概念は、理解しなくても(考えなくても)いいのです。
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2つの難解なパラダイム
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(A)「基本機能」が重要
(B)直交表で「交互作用」をチェックする
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この2つの難解なパラダイムが消滅すると、品質工学は平易で明確な手法に生まれ変わります。
品質工学が平易になれば、初心者が、コンサルタント無しで、本を読むだけで、独力で、品質工学を活用できる日が来るかもしれません。
そのレベルまで行かなくても、現在よりも少ないコンサルティング回数で、品質工学の活用が実現できるようになるかもしれません。
そうなれば、品質工学は、もっと普及することでしょう。
それが「もっといい品質工学」です。
『平易な手法だから、誰でも活用できる』と感じてもらえるよう、
これからも「品質工学」および「品質工学の紹介の仕方」を進化させていきたいと私は考えています。
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2018-05-12 11:16