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ブログプレゼンテーション『品質工学の紹介』5)なぜ、効率的な開発ができるのか? [シリーズ「品質工学の紹介」]

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品質工学で開発を行うと「なぜ、効率的な開発ができるのか?」を説明します。
また同時に、品質工学では、どのような手順で最適条件を求めるのかについても説明します。

動画(YouTube)でも見ることができます。
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説明の順序は、以下の通りです。
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1.3.1 良い条件の求め方(簡単に説明)
1.3.2 プレス打抜きの良い加工条件(事例)
1.3.3 機械式腕時計の良い設計条件(事例)
1.3.4 良い条件の求め方(詳細)
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先ずは、「良い条件の求め方」を簡単に説明します。
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Step1 いろんな条件の組合せを作る
Step2 ノイズを与えて実験する
Step3 ノイズに対する強さを数値化する
Step4 良い組合せを選ぶ
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Step1から4の手順で開発を行えば、最適条件が求まります。
それでは次に、このStep1から4の手順について、具体的な事例で説明をします。
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品質工学で良い条件を求める手順について、具体的な事例で説明をします。
1つ目の事例は、「プレス打抜き加工での最適加工条件」を求める開発です。
 ※詳細な内容を知りたい方は、こちらの資料をご参照下さい。
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プレス打抜き加工の概要について述べます。
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プレス打抜き加工とは、金型(パンチとダイ)を用いて、材料を任意の形に打ち抜く加工です。
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今回測定したのは、プレスの「せん断周囲長さ」と「打抜きエネルギー」です。
「せん断周囲長さ」と「打抜きエネルギー」は、グラフのようにリニアな関係になります。

「せん断周囲長さ」は、打ち抜きの際、金型(パンチ)と試験片が接触する長さです。
試験片の幅が4mmならば、「せん断周囲長さ」は4mm×2=8mmになります。

次に「打抜きエネルギー」について詳しく説明します。
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このグラフは、実際に打抜き加工を行ったときのデータです。
横軸は「パンチストローク」、縦軸は「打抜き荷重」です。
「打抜きエネルギー」とは、「パンチストローク」と「打抜き荷重」の積です。
つまり、黄色で着色された面積が「打抜きエネルギー」になります。
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品質工学では、ノイズに強い良い条件を求めます。
それでは、プレス打抜き加工における「ノイズ」とは何でしょうか?
いくつかのノイズが考えられますが、今回の開発では「金型の摩耗」をノイズとしました。
これは「劣化」というノイズに分類されます。

まとめると、プレス打抜きの良い加工条件の開発においては、「金型が摩耗しても、その影響が小さい良い打抜き加工条件を探す」ことが、品質工学での開発の目的になります。
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品質工学で良い条件を求める手順【Step1】は、「いろんな加工条件の組合せを作る」です。
プレス打抜きの加工条件として、以下の7つの加工条件を設定しました。
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・パンチ材質
・パンチシャー角
・クリアランス
・板押さえ力
・打抜きスピード
・潤滑
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そして、それぞれの条件において、2から3水準の数値(または材質など)を設定し、条件の組合せを作ります。
例えば、ある組合せでは、以下のような加工条件の組合せになります。
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・パンチ材質:SKD
・パンチシャー角:2.86deg
・クリアランス60μm
・板押さえ力:125N
・打抜きスピード:10mm/s
・潤滑:あり
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このようにして、いろんな組合せの条件を作ります。
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品質工学で最適条件を求める手順【Step2】は、「大きなノイズを与えて実験する」です。

【Step1】で作った「いろんな加工条件の組合せ」において、ノイズを与えた実験を行います。
今回設定したプレス打抜きでのノイズは、「金型の摩耗」です。
そこで、「摩耗していない新品の金型」と「摩耗している金型」を用意して、それぞれにおいて、いろんな加工条件の組合せでプレス打抜きの実験を行います。
今回は、金型のエッヂに0.1C(0.1mmの面取り加工)を施したものを「摩耗した金型」として実験しました。
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先ずは、「摩耗していない新品金型」をプレス機にセットし、打抜き実験を行ってデータをとります。
次に、「摩耗した金型」をプレス機にセットし、打抜き実験を行ってデータをとります。

測定したデータは、上記のようになります。
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せん断周囲長さ:プレス打抜きする長さ
打抜きエネルギー:プレス打抜きに要するエネルギー
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せん断周囲長さが2倍になれば、打抜きに要するエネルギーも2倍になるはずです。
つまり、上記のグラフにように、比例の関係になります。
また、「新品の金型」よりも「摩耗した金型」の方が、打抜きに要するエネルギーは高くなります。
金型が摩耗している方が、切れ味が悪くなりますので、当然、打抜きに要するエネルギーは高くなります。
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【Step1】で、「いろんな加工条件の組合せ」を作りましたので、「いろんな加工条件の組合せ」毎のデータが、実験により得られます。
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・組合せA:摩耗による影響が大→摩耗に弱い→ノイズに弱い
・組合せB:摩耗による影響が小→摩耗に強い→ノイズに強い
・組合せC:摩耗による影響が中→摩耗に中位→ノイズに中位
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このように、加工条件の組合せが変わると、「摩耗」というノイズに対する強さが変わります。
品質工学では、「ノイズに強いものを最適」としますので、この場合は「組合せBがベスト」ということになります。
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品質工学で最適条件を求める手順【Step3】は、「ノイズに対する強さを算出する」です。

前回の【Step2】において、「摩耗」というノイズに対する「強弱」が明らかとなりました。
この「強弱」は、実験結果をグラフにプロットしてみると、一目瞭然です。
しかし、「強弱」の違いが微妙な場合は、この「強弱」を目で見て判断することは、とても難しくなります。
そこで、このノイズに対する「強弱」を、数値として算出する必要が出てきます。
品質工学では、このノイズに対する「強弱」を「SN比」という尺度で計算しています。
SN比の計算式は、図中のようになります。
次に、数式中の「σ」と「β」について説明します。
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SN比の数式中にある「σ」は、「ばらつき」を表しています。
【摩耗した金型】と【新品の金型】の間にラインを引き、そのラインの「傾き」が「β」になります。
実際には、もっと複雑な計算をしていますが、イメージとしては上記のような「σ」と「β」になります。
※詳細な計算方法をお知りになりたい方は、関連書籍をお読みになるか、または本格的なセミナーを受講していただければと思います。
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実際にSN比を計算してみたい人は、弊社ホームページより、SN比を計算できるエクセルファイルを無料でダウンロードすることが可能です。
https://masudaqe.blog.so-net.ne.jp/2011-01-02-5
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この計算式でSN比を算出すると、上記で紹介したプレス打抜きの加工条件の組合せでは、以下のような算出結果になります。
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・加工条件の組合せA→10(db)
・加工条件の組合せB→18(db)
・加工条件の組合せC→13(db)
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ここで重要なのは、「SN比が高い」=「ノイズに強い」ということです。
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「各加工条件の組合せ」と「SN比の算出結果」を見てみましょう。
「組合せB」のように、ばらつきが小さいもの、つまり、「ノイズに強い」組合せでは、SN比が高くなっています。
SN比は、相対的なものですので、「複数の組合せを比べて、どちらの方が良いか」ということを評価する尺度として使います。
よって、「15db以上は良い」というような、絶対的な尺度としての評価は行いません。
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「SN比が高い」条件の方が良い、ということはご理解いただけたと思います。
しかし、SN比だけで評価して良いでしょうか?
例えば、ご覧のように「組合せB」と「組合せE」があったとします。
この場合、「組合せB」の方がSN比が高くなっています。
しかし、グラフのデータをよく見てみると、「組合せE」の方が全体的に打抜きエネルギーが低くなっており、新品の金型でも摩耗したした金型でも、どちらでも切れ味が良いということを示しています。
ということで、SN比だけで評価するのは問題がありそうです。
そこで品質工学では、SN比とは別に「感度」という尺度でも評価を行います。
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「感度」について説明をします。
「感度」の計算式をご覧下さい。そこには「β」しか入っていません。
つまり、「感度」とは「傾き」を表しています。
先ほどの「組合せB」と「組合せE」の「感度」は、グラフのようなイメージになります。
プレス打抜きの開発の場合、横軸は「せん断周囲長さ」、縦軸は「打抜きエネルギー」ですので、「感度」が低い方が『切れ味が優れており、良い条件』ということになります。
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ということで、品質工学では、「SN比」と「感度」の両方で評価を行います。
プレス打抜きの開発の場合は、
 ・「SN比」が高くて
 ・「感度」が低い
という条件が、最適条件になります。
ご覧のように、「組合せB」はSN比は高いですが、「感度」も高くなっています。
「組合せE」は、SN比は低いですが、「感度」は低くなっています。
SN比と感度のどちらを重要視するかで良い条件は変わりますが、この場合は「組合せE」を選んだ方が良い条件と言えます。
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最適条件を求める手順【Step4】は、「最適な組合せを選ぶ」です。

【Step3】で得られた「SN比」と「感度」、そして「加工条件」の関係を解析すると、要因効果図と呼ばれるグラフが得られます。
(※要因効果図の作り方については、↓こちらをご覧下さい)
Manufacturing_QE_present.015.png

これは、各加工条件の各水準の効果を表しているものです。
例えば、「パンチ材質」は、[SKD]と[超硬]では、[超硬]の方が「SN比が高くて最適」ということになります。
また、「打抜きスピード」は、SN比はどの条件でも同じレベルですが、感度は[10]が一番低くなります。よって、[10]が最適な条件になります。
このようにして、全ての加工条件を見ていくと、薄緑色を付けた水準が、「最適条件の組合せ」ということになります。
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これで「プレス打抜きの良い加工条件」が求まりました。
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まとめます。
プレス打抜き加工において、品質工学を用いて開発を行った結果、「金型の摩耗に強く(SN比高い)、切れ味の良い(感度が低い)、良い加工条件が求まった」ということになります。

「金型の摩耗に強い」ということは、「金型の寿命を延ばすことができる」ということになります。
よって、金型のコストを低く抑えることが可能となります。
また、摩耗しても切れ味の低下が小さいので、プレス打抜き面の品質も良好になります。
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【目次】
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1)はじめに&目次
2)品質工学の概要
3)品質工学での「良い」とは何か?
4)なぜ、市場や工場でトラブルが減少するのか?
5)なぜ、効率的な開発ができるのか?
6)機械式腕時計の良い設計条件
7)良い条件の求め方(詳細)
8)なぜ、コストを低減できるのか?
9)品質工学の導入方法
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