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ブログプレゼンテーション『品質工学の紹介』6)機械式腕時計の良い設計条件 [シリーズ「品質工学の紹介」]

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品質工学で良い条件を求める手順について、具体的な事例で説明をします。
前回紹介した事例「プレス打抜きの良い加工条件」では、加工条件の最適値を求める手順を説明しました。
今回紹介する事例「機械式腕時計の良い設計条件」では、設計条件の最適値を求める手順を説明します。

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時計の設計技術者の仕事は何でしょうか?
それは、時計の良い設計条件を求めることです。
設計条件とは
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・最適な歯車の硬さ
・最適なゼンマイの材質
・最適なゼンマイの長さ
・最適な軸受けの材質
・etc
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などのことです。
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品質工学では、ノイズに強い良い条件を求めます。
それでは、機械式腕時計におけるノイズとは何でしょうか?
いくつかのノイズが考えられます。
例えば
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・歯車の摩耗(劣化)
・グリスの劣化(劣化)
・温度(環境)
・歯車の製造上のばらつき(材料や部品や加工条件のばらつき)
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などです。
このプレゼンでは、説明をわかりやすくするために、「温度」のみをノイズとして設定することにします。
「温度」は、環境というノイズに分類されます。
まとめると、この腕時計の最適設計では、「温度が変化しても、その影響が小さい良い設計条件を探す」ことが、品質工学での開発の目的になります。
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品質工学で良い条件を求める手順【Step1】は、「いろんな設計条件の組合せを作る」です。
機械式腕時計の設計条件として、以下の8つの条件を取り上げます。
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・ゼンマイの厚さ
・ゼンマイの材質
・ゼンマイの長さ
・ゼンマイの幅
・歯車の硬さ
・グリスの粘性
・歯車の表面粗さ
・クリアランス
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そして、それぞれの設計条件において、2から3水準の数値(や材質など)を設定して、条件の組合せを作っていきます。
例えば、ある組合せでは、以下のようになります。
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・ゼンマイの厚さ:0.1mm
・ゼンマイの材質:銅
・ゼンマイの長さ:150mm
・ゼンマイの幅:3.0mm
・歯車の硬さ:600HV
・グリスの粘性:硬
・歯車の表面粗さ:粗
・クリアランス:中
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このようにして、いろんな組合せの設計条件を作ります。
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品質工学で良い条件を求める【Step2】は、「大きなノイズを与て実験する」です。

【Step1】で作った「いろんな加工条件の組合せ」において、ノイズを与えた実験を行います。
腕時計のノイズは「温度」です。
そこで、腕時計を冷たくしたり、温かくしたりして実験を行います。
腕時計にノイズを与える実験は、恒温槽を用います。
先ずは「冷たい恒温槽」に腕時計を入れて、データをとります。
次に「温かい恒温槽」に腕時計を入れて、データをとります。
【Step1】で作った「いろんな設計条件の組合せ」の腕時計で、上記のような実験を行います。
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測定したデータは、上記のようになります。
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・横軸「実時間」:正確な時間
・縦軸「腕時計の時間」:腕時計が示す時間
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「実時間」と「腕時計の時間」は、比例の関係になります。
腕時計を「冷たい」環境に置くと、歯車が収縮して、歯車と歯車の隙間が広くなります。
隙間が広くなると、摩擦抵抗が減って、腕時計の針が速く進み、腕時計の時間が速くなります。
逆に、
腕時計を「温かい」環境に置くと、歯車が膨張して、歯車と歯車の隙間が狭くなります。
隙間が狭くなると、摩擦抵抗が増えて、腕時計の針が遅くなり、腕時計の時間が遅くなります。
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【Step1】で「いろんな設計条件の組合せ」を作りましたので、「いろんな設計条件の組合せ」毎のデータが、実験により得られます。
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組合せA:温度による影響が中位→温度変化に中位→ノイズに中位
組合せB:温度による影響が大きい→温度変化に弱い→ノイズに弱い
組合せC:温度による影響が小さい→温度変化に強い→ノイズに強い
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このように、設計条件の組合せが変わると「温度」というノイズに対する強さが変わります。
品質工学では、ノイズに強いものを良いとしますので、この場合は、「組合せCがベスト」ということになります。
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品質工学で良い条件を求める手順【Step3】は、「ノイズに対する強さを算出する」です。
品質工学では、この「ノイズに対する強さ」を「SN比」として算出します。
また、「傾き」を「感度」として算出します。
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腕時計の組合せでは、以下のような算出結果になります。
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・設計条件の組合せA→SN比:23(db)→ノイズに中位
・設計条件の組合せB→SN比:20(db)→ノイズに弱い
・設計条件の組合せC→SN比:28(db)→ノイズに強い
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つまり、「SN比が高い」=「ノイズに強い」のです。

「感度」については、『傾き=1』になる場合が理想です。
『傾き=1』を「感度(dbデジベル)」に換算すると「0db」になります。
つまり、理想の「感度」は、『感度=0db』となります。

従って、SN比と感度の両方を考慮して、「SN比が高く」かつ「感度が0dbに近い」条件が良いとなります。
この場合は、組合せCが3つの中で良い条件となります。
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品質工学で、良い条件を求める手順【Step4】は、「良いな組合せを選ぶ」です。

【Step3】の実験で得られた「SN比」と「感度」、そして「設計条件」の関係を解析すると、要因効果図と呼ばれるグラフが作成することができます。
これは、各設計条件の各水準の効果を表しているものです。
例えば、「ゼンマイの厚さ」は、[0.1mm]と[0.2mm]では、[0.1mm]の方が「SN比は高くて最適」ということになります。
「ゼンマイの長さ」は、「SN比」はどれも同じですが、「感度」は0dbに近づいた方が理想ですので[水準1]を選んでいます。
このようにして、全ての設計条件を見ていくと、薄緑を付けた水準が、「良い条件の組合せ」ということになります。
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これで「機械式腕時計の良い設計条件」が求まりました。
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まとめます。
腕時計の設計において、品質工学を用いて開発を行った結果、「温度変化に強く(SN比が高く)、傾きが1に近い(感度が1に近い)、良い設計条件が求まった」ということになります。
「温度変化に強い」ということは、「手に装着していても、外していても、夏でも冬でも、温度変化による時刻の狂いが少ない」ということになります。
よって、正確な時を刻む時計を世に送り出すことができます。
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品質工学では、「ノイズに対する強さ」を「SN比」という尺度で算出し、良い条件を求めます。
SN比は、良い条件を求めるのに使うだけでなく、他にも便利な使い方があります。
それは、単に「比較をする」という使い方で、「機能性評価(ロバスト性評価)」と言います。
この使い方を、2つの例で説明します。
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【1つ目の例】
SN比は、「自社の製品」と「他社の製品」を比較するのに使えます。
先ず、自社製品の腕時計にノイズ(温度)を与えてデータをとります。
次に、B社とC社の腕時計にも、ノイズ(温度)を与えてデータをとります。
そうすると
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・自社製の腕時計→23(db)→ノイズに中位
・B社製の腕時計→20(db)→ノイズに弱い
・C社製の腕時計→28(db)→ノイズに強い
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という結果になり、自社製品よりも、C社製の腕時計の方が優れていることが評価できます。
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【2つ目の例】
SN比は、外部から調達する購入部品「A社製のゼンマイ」と「B社製のゼンマイ」と「C社製のゼンマイ」を比較するのに使えます。
「A社製のゼンマイ」と「B社製のゼンマイ」と「C社製のゼンマイ」を組み込んだ腕時計に、ノイズ(温度)を与えてデータをとります。
そうすると
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
・A社製のゼンマイ→23(db)→ノイズに中位
・B社製のゼンマイ→20(db)→ノイズに弱い
・C社製のゼンマイ→28(db)→ノイズに強い
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
という結果になり、「C社製のゼンマイ」が優れていることが評価できます。

このように、ノイズを与えてデータを取り、SN比を算出することにより、比較を行うことができるのです。
便利な使い方ですので、比較をする際は、ぜひSN比を使ってみて下さい。
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【目次】
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1)はじめに&目次
2)品質工学の概要
3)品質工学での「良い」とは何か?
4)なぜ、市場や工場でトラブルが減少するのか?
5)なぜ、効率的な開発ができるのか?
6)機械式腕時計の良い設計条件
7)良い条件の求め方(詳細)
8)なぜ、コストを低減できるのか?
9)品質工学の導入方法
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